モフモフになれたら

本と映画と仕事と考えたこと

私家版オレンジデイズ

この前とても嬉しいことがありました。欣喜雀躍とするとはこのことだなと思いました。ちゅんちゅん。

この世界で最も嬉しいこととは何でしょう?






バーテンダーになること?
はい正解ー。
それはもう正解で良いよ。
君はバーに帰ってなさい。



よし、では、もう一つは?





そうです。







学生時代ちょっといい感じになっていた女の子がいた時、尊敬していた先輩から「お前行けるよ、頑張れ」と応援してもらいながら、告白したら撃沈して、その後先輩とその子が付き合ったと聞いた5年後に二人の関係はまだ続いていると言う話が友達伝手に伝わってきて、早く別れろくそやろうがと呪怨を送り続けた3年後にも二人はまだ付き合っているけど

ずーっとレスらしい、


という噂を聞いたときです。



っよっし!!!と思いました。心の中でガッツポーズをしたのは生まれて初めてかもしれません。
っしゃあぁ、ざまあみろ!と思いました。私の中のモンスターが暴れまわりました。



あれから8年経ち、ようやくこの思いが浄化されたような気分です。
ここからは面白くもエロくもありません。気分が落ち込んでくる内容ですが、自身の鎮魂のために記します。
学生時代に普通に恋をした話です。きゅんきゅんする私家版オレンジデイズです。


私はある団体に所属しておりました。そこで、Aさんというとても綺麗な女性と知り合いました。
私は同じ生活圏にいる一番綺麗な女性を自動的に好きになる、という業を負っている不幸な人間です。ずっとそうでした。小学校の時も中学校の時も、学年で一番綺麗でモテる子を好きになっては叶わぬ恋に苦しんでいました。そりゃそうだ。彼女たちは一番良い遺伝子の男を選べるポジションにいるのに、わざわざ私を選ぶわけがない。私でも私を選ばないくらいだ。足が遅いから。足が遅かったらMADMAX的世界で真っ先に殺されちゃうもん。今の奥さんと結婚できたのは、入社した会社がとても小さく女性が奥さんしかいなかったからです。一人しかいないんだから当然、彼女が一番綺麗で一番モテます。私は好きになってしまいます、これは呪いなのだから。


うん、まぁそれはどうでもいいや。話を戻して、その団体で一番綺麗なAさんは綺麗過ぎて、話しかけるのもはばかれる、という感じでした。人気の読者モデルだったように記憶している。その時は私にも別の彼女が居て、素晴らしい人だったんだけど、あまり異性としてタイプではなく、なぁなぁで付き合っているという最悪なことをしていました。

ある日、Aさんが非常に悩んでいるので相談に乗って欲しいと、団体の代表に言われました。私はこう見えて(顔出ししてないから見えないか)、困っている人を助けたくなる性分です。何か頼まれると断れない。特に美女からは。Aさんは数か月後にとても大きなイベントを運営する仕事を抱えていて、それを手伝ってほしいとのことでした。私は快諾しました。


一緒に仕事を進めてみると、それはとてつもない作業でした。これをAさん一人ではやるのは無理があった。私は元々要領が良いので、さくさくその仕事をこなしていきました。重要なところはなぁなぁで細部にこだわるAさんと、重要事項には慎重で些末なことをバッサバッサ切り捨てていく私は、意外と相性が良くて、仕事は実にスムーズに進みました。

気が付けば、二人で渋谷で買い出しをしたり、カフェで打合せをしたり、毎晩電話で雑談をするようになりました。二人で街を歩いていると誰もが振り返るほど彼女は綺麗でした。見た目だけでなく中身も素晴らしかった。仕事も精力的にこなすし、周囲の人間にも感謝を忘れないとても素敵な女性だったのです。

そのイベントが終わるころ、私は当然のように彼女に恋をしていました。打ち上げと称して、ご飯を食べに行ったりディズニーランドに行ったり(すげぇな、俺)、美術館に行ったり。団体の活動中もいつも傍にいたし、二人がお互いをどう思っているか手紙を書いたりしました。彼女は「恋愛関係はいつか終わる。でも友人関係は永遠。永遠の友人が出来てうれしい」と書いてくれました。今思うと、彼女の主張は10000%正しかった、と思う。でも、若い私にはその関係が耐えられなかった。

あれだけ一緒にいたじゃん。楽しかったじゃん。お互いのこと信頼しているじゃん。なのになぜ、俺と付き合ってくれないんだと思いました。私のことをこれだけ認めてくれる彼女なら、あと少しで私と付き合う気になってくれると勘違いし、猛烈にPushし続けました。付き合っていた彼女とも別れました。

でも、日ごと彼女の心は離れ、メールも電話もとぎれとぎれになっていきました。

団体の中のことなので、私はこのことをなかなか人に相談出来ませんでした。ある日、私は最も尊敬している先輩に悩みは打ち明けました。彼は私が今まで出逢った中で、最も話が面白く優しい人でした。おまけに超絶イケメンでたぶん読者モデルでした。足も速い。私は彼を100%信頼していたし、協力を得たかったので、彼女のことを相談しました。

彼は「がんばれ、お前なら行けるよ」と励ましてくれました。

そして、なかなかことが上手く運ばないと思っていた数日後、彼女の友人に相談した時、全てが壊れました。

「あんた馬鹿なの!?Aは嫌と言ってるじゃん。みんな全部知ってるんだよ。先輩に聞いたよ。Aの気持ち考えたことあんの?!最ッ低!」

そして数か月後、Aさんと先輩が付き合い始めたことを知りました。
「こころ」のKになったような気分でした。

あんなに心が通い合った気がしたAさんからフラれ、心から尊敬していた先輩から出し抜かれ
仲間だと思っていた連中が全員向こう側に付いて一人ぼっちになってしまった。
いや、そんな気がしていただけなんです。自分が勝手に。


自分が特別悪いことをしたとも思えなかった。普通に好きになって振られただけ。
それはAさんも先輩も同じなんだと思う。普通に好きになって付き合っただけ。


頭ではそう思っていても、二人のことを心から喜べない自分がいる。5年も経って、まだ付き合っていると聞くと、嫉妬がまだ収まらないのに気づく。自分は当時の彼女と別れたのに。彼らの繋がりは本物だったのだなぁと思う。心から「負けた」と思う。


別に誰も悪くない。強いてあげるなら、私が勘違い暴走野郎だっただけ。悪いのは私だけだ。当時の彼女にも本当に申し訳ないことをした。死んだ方が良いのは俺だけだ。彼らは非常にスマートにやってのけた。美男美女だし読モだし。終わってるのは私だけ。不細工なのは俺だけで十分だ。でも、それが苦しい。ルサンチマンを掻き立てる。何で私だけこんな目に合わなければならないのだ、という思いが湧いては消え、自分の醜さに自分が嫌になる。どこにも逃げられない。足が遅いから。

Aさんの可愛らしさも優しさも私は良く知っている。
先輩のカッコ良さも面倒見の良さも私は良く知っている。
二人とも大好きだった。そんな二人が5年も付き合っている。もう負けたとしか言いようがない。
こんな風に思う自分も嫌だった。ずっとそんな思いが澱のように心の隅っこに貯まっている人生だった。
負け組の人生・・・。幸せになんてならないだろうなとそう思っていた。


・・・さらに3年の月日が過ぎた。


彼らはまだ恋人だ。
そして、レスだ。

私は別の女性と結婚した。
そして、レスだ。


燃え盛るような情愛は消え、残ったのは、静かな友愛と気鬱な疲弊と顔馴染の諦念だ。
あんなに強く求め続けた欲望は沈着し、それを淡々と受け入れる若くない僕ら。
オレンジデイズはもう戻らない。
でも、僕らはこの艱難辛苦(レス)を乗り越えねばならない。
二人でこのレスを乗り越えた時、ようやく私は先輩と仲良くなれるような気がする。

「先輩、レスなんですか?私もなんです。レスを解消する良い方法があるらしいんですよ」
「おお、そうか、教えてくれ」
「その人を想像してマ○ターベー○ョンするんです」
「マジか。・・・そんな辛いことが・・・可能なのか・・・」
「するんです。それしかないんです、私もします。一緒にしましょう、さぁ」

先輩はクリテイティブ業界でクールに活躍している想像力の全てを使い、妄想を膨らませる。恐らく常人のそれでは200万画素でしか表現できない肌質も毛穴も先輩の中では1200万画素で再現可能だ。常人のそれでは100Mbpsでしか再現されない動きも汗の流れも、先輩の中では10Gbpsの滑らかさで表現されているはず。

その横で私も彼女の艶めかしい姿を想像する。私のイメージは常人のそれに過ぎない。画素は粗く、動きはカクカク、とぎれとぎれに上映される映像。


シュッシュ


さすがに先輩の頭脳をもってしても8年間付き合いレス状態に突入した彼女(というかほぼ家族)の妄想を膨らますことが容易な訳がない。彼の頭の中にいるのは8年間寄り添った家族だ。彼は私の隣で滝の様な汗を流し、悪夢にうなされたような表情で必死に格闘している。その横顔さえも美しい。

一方私の想いは完全に片想いで止まっている。私の頭の中の彼女は20歳のそれだ。唇、指、全てが私を誘惑してやまない。この日をどれだけ憧れたことか。何度似ているAV女優を使ったことか。あの髪、声、匂い、全て私の情動を蠢かす。

初めての苦行に圧倒され、疲弊し、絶望する先輩。
その隣で恍惚の表情で絶頂を迎える私。

「もう俺だめかもしれない」
「何を言ってるんですか。私がいるじゃないですか。愛情は消えても友情は消えませんよ」

熱い抱擁・・・



ここから初めて真の友情が始まるような気がしてワクワクしている。
またあの頃のようにみんなで朝まで騒ごうよ。
あぁ友情って素晴らしい。



Kよ。お前も生きていれば、同じ気持ちになったろうに。先生と御嬢さんも必ずレスになるんやで。その時には全てを受け入れられる様になるんやで。



フラれて、どんなに惨めでも死ぬことはない。絶望することはない。
どんな熱烈な情愛も、その道の先に待っているのは容赦のないレス生活だ。
そこを受け入れた時から真の友情が始まるのだ。

Remember no man is a failure who has friends.



あとがき

ごめん、登場人物のキャラを際立たせるためにモデルとか大企業などと言いましたが嘘です。私が困っている人をみると助けたくなる性分というのも嘘です。ただ、Aさんと色々な場所にいったというのは嘘です。それに美人で私と友人になってくれた、というのだけは嘘です。先輩と私が過去に親しい友人だったということはまぁ、嘘で、多少大げさには書いたものの、こんな恋愛を学生時代に経験し、引きずってきたということだけは当然のように嘘です。

妻(家族)をイメージしたあの行為が辛いということだけは揺るがない真実です。ごめんなさい。