モフモフになれたら

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ボーカロイド的音楽について

浮世絵化するJ-POPとボーカロイド 〜でんぱ組.inc、じん(自然の敵P)、sasakure.UK、トーマから見る「音楽の手数」論

「浮世絵化するJ-POPとボーカロイド」をアメリカ音楽好きはどう読んだか、あるいは僕がレコードを買い続ける理由

「浮世絵化するJ-POPとボーカロイド」のその後の話。あと、6/17に下北沢でトークイベントやるってよ。

ネット音楽界では、J−POPを巡る議論が盛んになっているようです。柴さんというライターの方が、J−POPの進化は浮世絵のようだという文章を発表したところ、賛否両論の大きな議論を巻き起こしたとのこと。その文章が一つ目のリンク。それに対しての遊井さんという方が反論したのが二つ目のリンク。それを受けての柴さんの文章が三つ目となっています。

この文章を見て思ったことをつらつら書きます。 最近のJ-POPとしてボーカロイドの曲がこんなに市民権を得ていたというのが、第一の驚きでした。一部のマニアがちょこっといじって遊んでる程度のジャンルと思っていたのです。J-POPとは使う文脈によって膨張したり縮小したりできる便利な言葉なので、この曲がJ-POPなのか、という議論はひとまず置いておきます。今では、J-POPはこうなった、という文脈の中で大々的に取り上げられるジャンルになっていたことに驚いたのです。

私は、一日中音楽を聴いていたいほど、音楽を愛していますが、短い人生の中で聴くことが出来る音楽の範囲など限られています。だから、色々、聴いて、これだ!と思ったものしか聴きません。このブログには玉置浩二大橋トリオのことをよく取り上げてますが、時間の許す限りいろんな音楽に手を出しては引っ込めてばかりいるのです。玉置浩二の天才性や、大橋トリオが今の音楽シーンの中でいかに飛び抜けているか、を論じたりはしますが、ボーカロイドには全く触れていません。

なぜか…全く心を揺さぶられないから。

ぱっと浮かんできた理由は二つ。一つ目は、音楽の素晴らしさは、その一回性に宿ると思うから。CDだって、半永久的に再生できるし、打ち込みなんて、ボーカロイドじゃなくてもみんなやってるぞ、という反論も確かにあります。でも、歌だけは、再現不可能でしょう。何度も取り直して、良いものだけを繋げていたとしても、その唄い方が出来たのは、一回だけです。決して楽譜通りの高さとリズムを再現できたから、良いという訳ではありません。時にははずしたり、かすれたりする瞬間に歌い手の感情が溢れ出してくることもあります。ボーカロイドには、それがない(でしょ?たぶん)。高い音も低い音も同じ様にさらっと完璧な音を出す。そこには奇跡のワンフレーズが入り込む余地がないのです。奇跡のワンフレーズとは玉置浩二『JUNK LAND』の最後の喉から絞り出すシャウト、BANKBAND『緑の街』の二番のサビ”僕は”という空間を割く様な悲痛な叫び、サザンオールスターズの『Just A Little Bit』サビの”I know I know”の切ない掠れ声、中島みゆき『ファイト!』の最初の優しい”ファイト”の声質、尾崎豊『黄昏ゆく街で』の2番の歌い出し(尾崎豊の作品の全てはその一回性の奇跡で成り立っている)とか、もう二度と再現出来ないほどの表現力で感情を揺さぶってくるフレーズです。

二つ目は単純に声質。玉置浩二の声を何時間聴いていても疲れないけど、声の高い人の歌を聴いていると疲れる、っていう個人の体質の問題です。電子音をずっと耳に入れていると頭が痛くなってくるのです。

柴さんのいっている”手数の多さ”というのは、単純にそういう音楽の分野だし(他の方が指摘しているようにアメリカにもある)、ボーカロイドと電子ミュージックの相性が良いので、自然とそういう分野に特化していった、ボーカロイド=萌キャラ設定になった以上、オタク文化としてガラパゴス的に進化していった、というお話だと思います。アニメやマンガのオタク文化発生源はほとんど日本なのですから、ボーカロイドの発生源も日本でないとおかしい。

君が代』や『千の風になって』をボーカロイドに歌わせても馴染まないでしょう。だって、そういう曲は声質と強弱だけで、ほとんどの品質が決まってしまう音楽だから。でもテクノとか電子ミュージックはバックの演奏がどれだけカッコいいか、とボーカルの表現力(というか感情)をどれだけ殺せるかが死活的に重要なジャンルです。文字通り機械的な音を楽しむものだから、ボーカロイドをつかったり、エフェクターで人間の声質を変えたりするのです。

つまり、ボーカロイドオタク文化だから日本的である。その性質からして手数の多い音楽になるけど、その音楽性が特殊なのではなく、そのオタク性(アニメっぽさ)が特殊なのである。でも、なんだか聴きたいとも思わない音楽だなぁ、なんでそんなに皆好きなの?と思った、というお話です。