モフモフになれたら

本と映画と仕事と考えたこと

スーパーで龍と出逢った話

頭を使わない仕事は将来消えるという話をしました。その筆頭として「スーパーのレジ打ち」を挙げましたが、近所のスーパーにスゴいレジ打ちの人が居たのを思い出したので、職がなくなる前に、ココに称えたいと思います。

とある駅の近くの東急ストア。その日、私は夕飯用の食材を買うためにふらりと立ち寄りました。レタス、きゅうり、納豆、豚肉、牛乳、キシリトールガム、など平凡過ぎる食材を買おうと私はレジに並びました。(買ったものから察するにその日の夕食は”キシリトールガムの納豆牛乳煮込み、豚肉レタスのキュウリバーガー”だ)

そこにいたのは少し小さめで控えめな印象のおばさんというには若過ぎ、お姉さんというには両親の戸籍確認とDNA鑑定が必要になるくらいの女性。私が買い物カゴをレジ台に置くと彼女の四肢を自在に動かし、大空を自由に飛び回る龍のごとく舞い始めました。または裏返したセミの如くもうスピードで手(足?)を動かし始めました。

バーコードのないレタスの価格を左手で手打ち入力しながら、右手で次のきゅうりをビニールに入れる。きゅうりの価格を左手で手打ちしながら、右手で牛乳のバーコードを読み取る。そのスピードはもはや四肢のそれではない。龍か昆虫のそれである。手足が6本ないと説明がつかないスピードなのだ。っていうか龍って手足6本なのか?龍の手足の本数はどうやって説明するのだ?といろいろ思っていると、信じられないことが起こりました。

まだキシリトールガムと豚肉がレジを取っていないにも関わらず、おばさ・・いやお姉さ・・いや龍は「1380円です」と価格を口にしたのです。

「お前には豚肉は必要ない、お前が豚野郎だから」と言っているのか。それとも「キシリトールガムなんて必要ないわ、あなたの口臭はとてもさわやかだから」というメタメッセージだろうか。

いや違う・・・そう・・・彼女、いや龍はセール品である豚肉と良く売れるキシリトールガムの価格を暗記しており、即座にレジを通った分とカゴに残った分を合算していたのです。残りのキシリトールガムと豚肉をレジに通す間に、私がお金を準備出来るように。自分が価格を出すまでの間、お客さんに待ってもらう時間を最小限にするために。

なんてこった!すげぇよあんた!あたい、スーパーで感動しちまったよ!

先に口頭で言った数字と実際にレジを通した後の数字が一致していたかどうかは、動揺し過ぎてよく覚えていませんが、そんなことは些末な問題に過ぎません。これだけのパフォーマンスを見せてもらったのだから、1000円高くても良いくらいだ。1000円安いともっと良い。

とにかくこの龍がスゴ過ぎるため、もうこの龍を通してしかモノを買いたくなくなりました。龍がいないなら、そのスーパーは寄らない。夕飯は抜きで良い。龍のいない夕飯など、四星玉のないドラゴンボールのようなものだ。物語すら始まらない。

同様の考えをもつモノが沢山いるのだろう、とにかく龍のレジには人が集まる。人が並び過ぎて、他のレジより時間がかかるくらいだ。だが、カゴを置いてから価格が決まるまでの時間が10秒短縮出来るなら、列に10分並ぶことが何であろうか。

とにかく私が言いたいのは、スーパーのレジ打ちという一見何の工夫も気遣いもいらないように見える仕事でも、突き詰めれば人を感動させることが出来るのだ、ということです。

だから、スーパーのレジは素晴らしい仕事だと言っている訳ではありません。龍ならきっと他の仕事でも大成功したことでしょう。

プロレスラーなんて良いですね。空翔べるし、火吹けるから。