モフモフになれたら

本と映画と仕事と考えたこと

臓物大展覧会

臓物大展覧会 (角川ホラー文庫)/小林 泰三
¥700
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小林泰三の本、三冊目!全部読む! 今回の表紙はいつもにも増して異常、奇怪、残酷。 こんな本をカバーも付けずに電車で読むワタシ・・・。 透明女 学生時代いじめをうけていた女性が、自らの存在を消すために『透明女』になることを選んだ。 透明ならだれにもみられない。だれにもいじめられることもない。透明なら存在もなく、記憶もない。過去も未来もない。 そして、その透明になる方法というのが「ウロボロスの秘術」である。 ウロボロスとははじまりもおわりもない完璧な存在。自らの尾を飲み込む聖なる蛇のこと。 つまり、ウロボロスノ秘術とは自らを飲み込むことで全てを消滅させ、究極の透明になる秘術。 ・・・もう・・・これは・・・さすがに・・・・ おぼろぇぇぇぇぇっぇえぇごえぇぇっぇぇ・・・・・・ いろんなグロ小説やグロ映画を観てきたけど、この描写は究極だった。本当に吐き気がした。気持ち悪くなって、その日の夕食は何も食べられなかった。 この発想は狂気である。常人には思いつかない、想像もできない、ブレーキをかけてしまうものだ。 小林泰三の最狂グロ小説だと思う。 ホロ 脳にチップが埋められており、そこから神経に情報を伝達して、幻覚を作り出す世界。だから、死んだ人もホロとして生きているように感じるし、ないモノもそこにあるように感じられる。逆方向に情報をフィードバックしているので人間の動きに合わせてホロも動きを変える。だから、普通に生活をしているうえで人間かホロか区別はつかない。そんな世界のお話。 人間がホロに飲み込まれているのではなく、自分だけがホロの世界に生きている・・・ と思いきや、ホロがホロを感知している世界だった・・・。 ただ情報がいったりきたりしているだけで、どこにも生命のいない世界・・・ これぞ、小林泰三の世界観! 少女、あるいは自動人形 人間とは不完全なオートマータである。これも小林ワールドの王道。 攫われて 少女への暴力描写が恐ろしい。 釣り人 釣りの話の後、急に未知との遭遇へ!訳分からない展開に困惑しつつ、見事に着地!こりゃ、よく出来てる!思わず笑ってしまった。 SRP 科学的なSF物語と夢いっぱいの妖怪奇譚が並列で語られ、見事にメタ科学的に着地する。 地球人たちは3次元の中で、観測できる物質の中でのみ宇宙を認識している。そのあまりにちっぽけな知の範囲に捕らわれることへの嘲りと警鐘。お互いが何の罪意識もなく傷つけあう様も、複雑な人間世界のメタファーなのかもしれない。 十番星 ちょっとオチの意味が分からなかった。どゆことこれ? 造られしもの これもロボットに支配された人間のお話。 悪魔の不在証明 ちょっと衝撃だった。 悪魔の証明について。存在証明(積極的事実)には存在する事例を一つ挙げれば済むが不在証明(消極的事実)は全ての事例を挙げねばならないため、非常に困難である。だから、存在か不在かを争う時は、一般的には存在証明側が根拠を挙げねばならない。 自分も当たり前のようにそう思っていたけど、厳密に議論するためには、ここには二つ突っ込みどころがある。まず、「非常に困難である」というのは理由になっていないということ。「困難」であっても決して「不可能」ではない。全てのハトの色を調べるのだって、事実上不可能だけど理論上は可能である。だから、非常に困難である、という理由は、論理の中に「めんどくさい」という私情を持ち出しているに過ぎないのである。 二つ目は「一般的に」というところ。厳密にいえば、「不可能ではない」のだから、不存在証明側は何も説明責任を負わないという理由はない。ただ、そう言われてきたから、慣習的にそう思っているだけなのだ。 科学論でいえば、「反論可能性を含んだもの」のみが新しい学説になりえるので、便宜上、存在証明だけが求められる。でも、それは科学が決めた勝手なルールである。科学とは科学論にのっとった言説のことだから。 (裁判にしても同じ。都合が良いから、存在証明のみをもとめている。裁判のルールにならっているだけである) だが、しかし、神はいるか、とか宇宙人はいるか、とか、観測できていない物質はなにか、とか、今の人間では認識できていない範囲の議論をしたときに、不在証明側がのうのうとしているわけにはいかないのだ。 「いま、分かる範囲では存在しない。宇宙全体を調べにはいけないから、便宜上存在しないってことにしておこう」とは言える。でも、あくまで便宜上なのである。厳密には「分からない」で留まっているのである。 「分からないこと」を分からないで留めておく姿勢があっても良いと思った。 科学を盲信していた自分は貫不見氏に軽く論破されてしまった・・・情けない。 この本もドキドキわくわくし、世界を見る新しい視点を提供してくれた。 良書中の良書だ。