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現代版国富論?『不道徳な経済学』

不道徳な経済学──擁護できないものを擁護する (講談社プラスアルファ文庫)/ウォルター・ブロック
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1976年にアメリカで出版された「擁護できないものを擁護する」という本の超訳本。 売春婦や麻薬や偽札など、日本社会で不道徳と言われているものを一つ一つ擁護していく形式。 最初は、ほうほうそんな見方もできるのか、と少し面白かったが、4,5個も読めば種が分かってくる。 「もしも大人同士が同意したのであれば、第三者に害を及ぼさない限り、何をしても自由である」という原則+市場原理(神の見えざる手)だけで全てを説明する単純な手法である。大人とは自己決定できる人、と定義されているので、どんな形であれ、同意は全て正当化され、市場は完全に対等な情報を与えられ、間違えないという前提に立っている。禁止するのは、いきなり相手に害を及ぼす、原初の暴力だけ。 だから、世の中で金品のやり取りがなされているのを全て擁護できるのだ。だって、やり取りがなされたということはそこに市場があるのだから。市場は完璧なかたちで運用されているとするならば、いらないものは淘汰され、必要なモノだけ残る、そう神の手によって。外部不経済によって人々の生活が取り返しのつかない形で損なわれることもあるし、教育は今の価値観では計れないものを取り込んでいくプロセスなのだから自己の判断でなされるものであってはならない、いくら酷い取引をする業者があっても、情報がと不均衡なら淘汰されず市場に毒を流し続けることもある。 だから。ケインズは、政府の介入が必要だと説いた。 マルクスは市場の歪みを、自分の「疚しさ」を駆動力として、革命をもって是正しようとした。 この本は市場は失敗しない、という大間違いの大原則に則って、ひとつひとつ説明しようとする本である。だから、論理の展開は全部一緒。畢竟、冗長になる。 少し面白いけど、良い大人が読む本でもなかった。 けど、橘玲さんはすごく好きなのである。 小説も面白いし、凄く広い知識の持ち主である。 きっと頭の良い人なので、こんな欠陥をしりつつも、すこし皆を驚かしたいと思って、この本を出したに違いない。