モフモフになれたら

本と映画と仕事と考えたこと

流行の3Dプリンタってなに?『MAKERS』

ちょっと前に話題になっていた本です。結構当たり前に「メイカー」とか「3Dプリンタ」っていう言葉が使われるようになってきたので、チェックしておかないと時代に取り残されそうなので、読みました。 海外のビジネス書は『リーンスタートアップ』の様に、読みにくい印象しかなかったのですが、この本は非常に読みやすいです。訳が素晴らしい。 内容を要約するとこう ーーーーーーーーーーーーー 蒸気機関の発明と機械式工業の出現による製造業の巨大化を第一次産業革命と言う。 化石燃料精製、内燃機関の誕生、自動車工場の自動化による製造業の巨大化を第二次産業革命と言う。 そして今、IT技術の進歩でボーダーレスにあらゆる情報がタダで手にはいる時代になった。求めれば爆発的な情報量が誰でにでも開けている、この時代を第三次産業革命と呼べるか??いや、上記の例に当てはめると言えない、と著者は言う。なぜなら、そこには製造業の爆発的な進歩が見られないからだ。 産業をビットとアトムに分けて考えると、世の中の見え方がクリアになる。これは著者がかなり前から用いている手法のようだ。ビットとは、0と1で表されるデジタルデータの世界、つまり情報、コンテンツの世界。我が世の春を謳歌しているSNS,ソーシャルゲームはこの世界。もっと過去からあるものは、テレビ、新聞、占い師なんかも実体のない「情報」の世界の住人だ。 それに対して、アトムとは実体を伴う、文字通り原子で構成されている世界。食べ物、車、家電、洋服、石油など、目で見て触れてるもの。人間の生活を支え、リアルな生活を充足させてきたのは、こちらのモノだ。生物が生きる上で、必要なものはすべてこちらにある。当然、人間が関わってきた歴史はビットよりも圧倒的に長い。ビットは我々の生活を楽しませてくれるが満たしてはくれない。いくら美味しそうなステーキの画像を見たところで、腹は膨れないのだ。人間の生活を根源的に改善する革命を産業革命というのなら、ビットの爆発的膨張を産業革命とは呼べない、というのはそういう理由からだ。 ただ、今少しビットに遅れがちなアトムが、ビットに引っ張られて急速な進化を遂げようとしている。アトムとビットが出会う時、その化学反応は我々の生活を根本的に変革するだろう。果たして、アトムの世界に巻き起こる革命とは何か!! 1つ目、3Dプリンタ 今までは、何か作りたい時には、設計図を書き、板を切り出し、ねじ穴をあけ、ねじをまわし、と非常に手間の多い過程を経なければならなかったアトムの世界だが、3Dプリンタがその労力を全てスキップしてくれる。作りたい人は、ただ設計図を書くだけ、あとは3Dプリンタが設計図通りに作ってくれる。今では10万円台で、自分の机の上で、樹脂製のアヒルを作ってくれる装置が売っているのだ。 2つ目、オープンハードウェア 簡単な素材の小さいものならば、3Dプリンタで実現可能だが、自動車や飛行機の様に、重厚長大、多大な設備と知識が必要なモノはビットによってどう変わるか。その鍵を握るのがオープンハードウェアだ。ビットの発達によって、自動車を作りたかったが自動車会社に入れなかった、違う仕事をしているが自動車に興味があるという「生かしきれていないエネルギー」を自動車産業に取り込むことができるようになった。ネット上のコミュニティで、各人の知恵を結集して、自動車の設計、デザインを考えることが出来る。必要な部品はネットで全て調達できる。ネットによって誰でも製造業に参加できるようになった、これが民主化だ。民主化によって、少数派の意見が反映されたモノが製造されるだろう。1500ccのグレーのセダンを大量生産しなければならない時代は終わった。オープンハードウェアによって、少ない需要と少ない供給を有機的に結びつけることができるようになった。マイノリティの多様性はマジョリティと同等かそれ以上の市場規模にふくれあがるだろう。 第三次産業革命とは製造業の民主化と言って良いかもしれない。一家に一台3Dプリンタが普及すれば誰にでも製造者「メイカー」になれる。自分がふとひらめいたアイデアをすぐに形にすることができる。ネット経由で誰にでも流通経路が開かれる。もっと知恵や技術が必要なモノも、オープンな議論の場で切磋琢磨することができる。産業の停滞の原因は多様性の欠如だ。多様性のないところにイノベーションは生まれない。オープンハードウェアは多様性から世界を変える可能性を秘めている。 今、我々は第三次産業革命の入り口にいる。 ーーーーーー とまぁ、こんな感じです。 結構わくわくするし、納得できることも多々あったのですが、結構突っ込みどころもありました。 3Dプリンタについては、まだ樹脂を固めてアヒルを作るくらいの段階なので、まだまだ期待しない方が良いんじゃないかということです、著者はインクジェットプリンタだってかつてはオフィスにしかないのに、今ではどの家庭にもあるじゃないか、という論理で3Dプリンタの未来を超楽観視していますが、字を印刷するのとモノを作るのじゃ圧倒的に違います。プリンタという名前をつけたから進化系なんじゃないかと勘違いしているだけで、全然違うでしょう。印刷に必要なものは設計図、つまり文章と素材はインクだけですが、モノを作るのに必要なのはインクではなく無限に存在する素材だから。素材がそのものを決めるといって良いほど、素材が圧倒的に大事だから。アヒルとか携帯ケースなら樹脂で良いけど、イス1つでも木や皮が必要だ。そして、どんな素材が適しているのか、という判断も含めてモノ作りですから。CADデザインだけで誰でもメイカーになれる、というのはちょっと疑問です。 オープンハードウェアについては、多様性という考え方には諸手を挙げて賛成なのですが、それが大きな波になるような気がしないのです。ヘッドを超えるほどのロングテールになるのでしょうか。デザインが優先されるモノなら素人集団が作ったものでも需要はあるでしょうが、車とか飛行機は安全性が何より大事だから毎日何時間も研究しているプロ集団に任せたいと思うのは僕だけでしょうか。一番大きな製造業は何と言っても建設です。建設を素人に任せられないし。建築もそう。 次が車。次が・・・家電?あ、家電ならスマホ連動のアホ家電よりも良いものが作れるかもしれないですね、命に関わるものでなければ・・・。 でも、やっぱし仕事の外で知恵を貸してくれる家電好きの人たちって革命をもたらすほど沢山いるんだろうか、っていうのが疑問ですね。 まぁ無理して前のめりに第三次産業革命に顔を突っ込まなくても、事後的に、あれが革命だったのかもしれない、と思うのでしょう。 個人的には次に大革命を起こすのは、3Dプリンタでもオープンハードウェアでもなく、iPS細胞なんじゃないかと思っています。だって、ガン、白血病、老化がなくなる可能性があるんですから。 蒸気機関石油化学、ITと比較できないほど人間に大きな影響を及ぼしますよね。