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弱いつながり 検索ワードを探す旅/東浩紀

 

弱いつながり 検索ワードを探す旅

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また東浩紀のエッセイです。なんと「今の自分を変えたい人のための自己啓発本」です。この本で、東浩紀は支持層を一気に拡大したのではないでしょうか。1時間もあれば簡単に読めちゃう軽い本ですが、示唆に富み、『一般意志2.0』で私が感じた違和感にもしっかり対応する内容でした。まずは「一般意志2.0」と関連する部分。

P33 ツイッターに代表されるソーシャルネットワークは、基本的に無料だからお金のない若者がいっぱい集まってくる。有名人はそんな「お金のない若者」の人気を取らなければならない。結果、ある種の情報は隠すようになっている。中略、彼らのつぶやきをいくら追っていても、彼らがどれだけの資産を持って、どんな車に乗ってて、どんな生活をしてるのか、じつはまったく伝わってこない。本当にリアルな情報はツイッターに書いてない。

『一般意志2.0』では情報技術の革新によるデータの蓄積を褒め称えていた東浩紀ですが、ここではきちんと、ソーシャルネットワークに溢れる情報が、一面的であることを指摘しています。ネット社会は「自分が知りたい情報」/「理想の自分」についてはほとんど無限に近い形でインプット/アウトプットが可能だけれども、予期しない世界、自分でも気づいていない可能性に触れるのは非常に難しくなっている。だから、いくらネットが世界と繋がっていようと、今ここ私を超克することは出来ないのです。グーグルの検索窓に入れるワードを規定しているのは、自分の環境だから。こうしたネットの限界をどう超えるか=自分の限界をどう超えるか、が本書の主題で、彼はそれを「リアルを変える旅」に求めます。情報や言葉だけでは議論は無限に拡散し、人間たちは繋がれない。でも、旅をし、実際にモノが目の前に現れれば、「憐れみ」の情が弱い繋がりを生み、それが人間を形作ると彼は言います。

P110 ヘイトスピーチを繰り返す在特会の方々も、目の前で韓国人が血を流して苦しんでいたら、国籍を尋ねる前に手を差し伸べるのではないかと思います。ひとは国民である前に個人であり、国民と国民は言葉を介してすれ違うことしかできないけれど、個人と個人は「憐れみ」で弱く繋がることができる。

P113 人間は、目の前にひとが血を流していたら思わず手を差し伸べてしまうし、目の前で異性(あるいは同性)に誘惑されれば思わず同衾してしまう、そういう弱い生き物であり、だからこそ自分の限界を超えることができる。人間は弱い。欲望をコントロールできない。ときに愚かな行動もとる、しかしだからこそ社会を作ることができる、旅に出るとは、そういう愚かな可能性に身を曝すということでもあるのです。

このフレーズに本書の主張全てが含まれているような気がします。情報や言葉だけでは人は繋がれないけれども、現前する相手に対して、「憐れみ」や「親しみ」や「魅力」を感じてしまう。それは理性でコントロールできる範疇にない。だからこそ、繋がれる。逆に言うと自分の理性が規定している枠組みからは新しい繋がりも発想も生まれない。もしあなたが今の環境が形作っている自分に苛立ち、退屈し、失望しているのなら、その枠組みを越えなければならない。

旅は、今までの自分、いつもの発想、いつもの繋がりを一時離れて、違う自分、新しい発想、別方向の繋がりを作れる最高の方法だということです。結論だけ見ると非常に凡庸に聞こえますが、本書の中身は結構多角的に分析されていて、なかなか面白かったです。

でもよく考えると、人と出会うにも、旅をするにも金がないとダメだなぁ…。