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もう誰も結婚できない 『困難な結婚』 内田樹

待望だった内田樹先生の結婚論!今までも色んなところで家族のあり方や夫婦のあり方について語られていましたが、まるまる一冊結婚論というのは初めてです。

困難な結婚

困難な結婚


内田先生の結婚論。底流する基本理念を一言で言うと”結婚は弱者のための制度”であるということです。これは完全に同意。

P24 率直に申し上げて、ご自身が「健やか」で「富める」ときは別に結婚なんかしてなくてもいいんです。その方が可処分所得も多いし、自由気ままに過ごせるし。健康で豊かなら独身の方が楽なんです。

「安定した収入があって、両親や兄弟も健在、仲の良い友達からの誘いが沢山あって、容姿端麗だから異性とのデートは絶えることがない、週末はジムで身体を鍛えて超健康、キャリアアップを目指して英語や資格試験の勉強もかかさない、年に2回の海外旅行でランデブー」なんて人は結婚しない方が良い。独身の方が絶対に楽しい。そりゃそうだ、毎日自分の好きなことだけを選択して生きていけるし、何かあった場合、失業したり、病気になったりした場合でも両親、友達、恋人が助けてくれるんだから。



弱者にとって結婚とは「自分が仕事を辞めても安定収入を得られ、相手の両親の庇護を受けられ、辛い時には配偶者がいつでも相談に乗ってくれる」ようになることです。

P24 結婚しておいてよかったとしみじみと思うのや「病めるとき」と「貧しきとき」です。結婚というのは、そういう人生の危機を生き延びるための安全保証なんです。結婚は「病気ベース・貧乏ベース」で考えるものです。

ふむふむ、なるほど。と一瞬思ったけども、落ち着いて考えてみよう。

本当に病気で貧乏な弱者が結婚なんて出来るのだろうか?



「収入が超不安定、もしくはない。家族が誰もいない。友達もいないし、見た目もマズイ。身体は貧弱で、何の将来性もない」という男性と結婚する女性はいるのか?同じ条件の女性と結婚しようと思う男性はいるのか?



いや、いない。絶対にいない。



ということは現代の未婚社会の原因は

強者は今の幸せを維持するために結婚する必要がない。そして弱者は今の不幸な境遇を抜け出す手立てであるはずの結婚をする術がない。つまり、結婚とは弱者でも強者でもない普通の人にしか出来ない。そして格差社会が強化される中、世の中は強者と弱者ばかりになってしまったことじゃないだろうか。


上記強者の条件の中から、一部は満たすけども、全部は満たさない人同士だけが、お互いを補填し合うために結婚できるのではないだろうか。


うちの例で言うと、「安定した高収入があって、両親や兄弟も健在、仲の良い友達からの誘いが沢山あって、週末はジムで身体を鍛えて超健康、毎日勉強ばっかりしてて将来も諦めていない、家事も出来る、趣味も多い。でも見た目が不味い。とにかくモテない」のが私。

「仕事すぐやめて、家族誰もいない、性格がめちゃくちゃすぎて友達も全然いない、身体も病弱で、毎日ゲームばっかりしてる、家事もやらない。でも顔が可愛くてスタイルが良い」のが奥さん。


結婚することで私は「見た目とスタイルの良い女性」を手に入れることが出来た。一方、奥さんは「安定した高収入と、いざという時頼れる親戚と、家のことをなんでもやってくれて相談に乗ってくれる男性」を手に入れた。WINWINだ。(1勝3敗だけど)

資本主義が増強されればされるほど、強者はより強者なり、弱者はより弱者になっていく。ボードゲームモノポリーがリアルな世界になりつつある。そんな世界で結婚なんて出来るわけがない。だから、もう誰も結婚できないんだよ。




その他、内田先生による金言をご紹介します。


離婚後、自分で家事育児をした経験を振り返ってこう言います。

P140 お金を稼ぐことも、家事労働も、それ自体はたいした負荷じゃないけど、それを家庭内で適切に「シェア」することは絶望的に難しいことなんだとしみじみ思いました。

夫婦ってお互い、自分が相手にやってあげたことは覚えていても、相手がやってくれたことは過小評価してしまいます。だから適切なシェアなんて絶対できない。お互いがお互いに不満を持ち続ける、それが夫婦の家事分担なのです、マジで。


結婚すると自分の好きなことが出来ない、責任がある、人生に制約ができると考えている人への言葉です。大人の言葉ですね。

P143 僕たちは「人から頼られるような人」になろうと思って、子供の頃から努力してきたんじゃないですか?何かあるとまず意見を求められる。困ったことがあるとまず相談される。「これはあなたにだけ打ち明けるんですけど」と告白される。議論がもめたときに「こうなったら、あなたが決めてください」とみんなから一任される。「あとのことはキミに任せた」と社長から会社を丸ごと委ねられる----そういうふうに「頼られる」人間であることが、社会的な成熟度や能力の指標であるのではないですか?

子育てで、キャリアに遅れが出てしまうんじゃないかと恐れている人へ。人生全て経験やで。でも本当、子育て経験したことがある上司とそうでない人では、指導の仕方が全然違うからね。

P153 だから、生きているだけで勉強なんです。街中で、人々に交わって生活すること。それが哲学修行なんです。無駄な時間なんかないんだ。そう思ったら、全然焦らなくなりました。育児のせいで時間が削られて、自分が本当にしなければならない勉強ができなくなるというふうに思わなくなった。


愛の本質をつくお言葉。玉置さんの「愛がある」にも通じる。

P166 よくラブソングの歌詞に「抱き合っていても、この人の心はもうここにはない」というようなのがありますけれど、これは話が逆だと僕は思います。「心がここにない人」とでも「抱き合う」ことが出来る。「愛してる?」と訊くと「もちろんだよ」と笑顔で答えてくれる。それでいいじゃないですか!なにを文句言ってるんですか!理解も共感もできない人と、それにもかかわらず抱き合うことができる。お願いすると「いいよ」と答えてくれる。こちらも頼まれたことは「はいよ」とやってあげることができる。素晴らしいことじゃないですか。「愛の奇跡」というのはそのことを言うのだと僕は思います。


結婚している人は、「そうそう、結婚って本当大変だよね」というあるあるが見つかると思います。(道でばったり大学時代の同級生の女の子にあった日に限って「今日なんかあったでしょ」と言われたり)結婚していない人は、「あぁ、自分は結婚できないし、しなくていいな」と思うと思います。

結婚は弱者救済のシステムのはずだったけれども、もう誰も弱者を救ってくれない。結婚という仕組み自体がなくなっていくんじゃないかな。