モフモフになれたら

本と映画と仕事と考えたこと

痛いってなんだろう『何者』/朝井リョウ

第148回直木賞を受賞した作品です。『桐島、部活やめるってよ』の朝井リョウが書いてます。

桐島、部活やめるってよ』は、確かに学校に存在する部活ヒエラルキーを巡る違和感と不条理を描いた作品でしたが、本作品も同じ様に大学時代、確かに感じた、あの違和感を見事に描いてくれました。

すごく大事な話なのに、今まで自分でちゃんと考えた事もなかったし、小説で扱われているものを読んだ事もなかった気がします。この本を読んでから、しばらく自分の中に生まれてくる感情について考え込んでしまいました。軽いタッチで物語は進みますが、ここまでリアルに自分の生活環境に落とし込んで考えさせられる本ってあまりないかもしれません。

とにかく一読の価値があるので、みなさまに読んでいただきたいのですが、この本のテーマに関して自分でも少し答えを出しておきたいので、ネタバレしない程度に、ここに書き記します。

まず、確かに居たし、自分もそうだったかもしれない痛い人について。大学時代によく見かけたので、この本は就活をメインに扱っているけども、実際には高校にも居たし、社会人になっても時々います、痛い人。痛い人ってどんな人か例を挙げます。痛いと思う人は人それぞれなので、自分がどんな人を痛いと感じるかが、キーになりそうなのです。

・バイトのことを仕事って言う ・サークル活動で社会人と関わっているせいか「学生とは違う」というオーラを出す ・何でもかんでも陰謀論に繋げる、自分は本当の事を全部分かってるんだと思ってる ・大学生なのに自分の名刺を持ってる。 ・有名人と知り合いだということをすごくひけらかす ・帰国子女で、日本に居る自分は本当の自分じゃないと悩む ・就職希望先がTV局→外資系金融→マスコミ、広告と華やか順、締め切り順に変わる。 ・『こいつら最高の仲間達だぜ!』ってFacebookで写真のせる。

くらいでしょうか。これは私が出会って、私が痛いなと思った人です。なんで、このことを痛いと思うのか、理由付けしてみます。

・バイトのことを仕事って言う…たかがバイトじゃねぇか。何もしなくても時間で給料貰えるし、責任とってお金を取られる事もない、すぐ辞められるし、換えは沢山居る。ノーリスクなのに、自分はリスクとってますっていうイッチョ前の顔するのはおかしい!

NPOのサークル活動で社会人と関わっているせいか「学生とは違う」というオーラを出す…これもたかが大学生の活動で、株主や債権者に対しての責任がある訳でもない。ただ、自分がやりたいから、好きでやっているのに、苦労してますって顔して、のんびりしている他の人達を見下すのはおかしい。

・何でもかんでも陰謀論に繋げる、自分は本当の事を全部分かってるんだと思ってる…根拠のない話をされても、反論も出来きない、それが正しいかもしれないけど、正しくないかもしれない、正しくないかもしれない可能性を全く吟味できていないところがすごく幼稚で話していて疲れる。

・大学生なのに自分の名刺を持ってる。…いつ使うんだよ、その肩書きはなんなんだよ。早く社会人になりたいという気持ちが急いていて足場が固まっていない感じ。もっと今出来る事をやったら?

・有名人と知り合いだということをすごくひけらかす…確かに有名人は有能かもしれないけど、あなた自信の資質には何の関係もないよ。

・帰国子女で、日本に居る自分は本当の自分じゃないと悩む…いまここにいるあなたがあなたじゃなくて誰なんだよ。どんなに上手く行かなくても、どんなに嫌いでも、あなたはあなた以外の何者でもないよ。

・就職希望先がTV局→外資系金融→マスコミ、広告と華やか順、締め切り順に変わる。…ただ華やかだからって希望するから、落ちてどんどん志望業界が変わっていくんだろ。本当に行きたいなら留年して、また受けろ!

・『こいつら最高の仲間達だぜ!』ってFacebookで写真のせる。…ウルセー

こう書いていると、すごく自分の性格が歪んでいるのが浮き彫りになってきて嫌ですね。でも、まさに狙った通り、この本のテーマとも重なるんですが、じゃあ、こうやって批判している私は、こんなこと言えるほど立派なのか?ということです。答えはもちろん、ノーです。すぐ背伸びするし、自分のこと偉くみせようとするし、人の幸福は僻むし、怠け者で馬鹿でケチでエッチで。もう終わってるの。だから、本当に”痛い”のは自分を棚上げして人の批判ばかりしている私自身だ。

そう。そこまではこの本はどこまでも正しい。 でも、この本では、痛い人の反論として『痛いのは分かってる!でも、そうするしかないの!』というのは違う、と思う。露骨に痛い情報を発信する人にも、それを分析している別な痛い人にもならないような道は、きっとある・・・

たぶん、 虚勢を張らない、嘘をつかない、自慢をしない、自分を価値ある人間と思ってくれる人間を無闇に増やそうとしない、でもやりたいことはちゃんとやる、失敗を恐れない ことだと思います。

ラーメン屋の壁紙にありそうな言葉だけど、これって人に好かれる大原則かもしれないですね。私は友達が極端に少ないのだけど、数少ない友達は、みんなこれを実践している連中の様な気がします。

まとめると、 自分が恵まれているとか、誰それと楽しく過ごした、こんなこと考えてる、なんて情報を受信しても、誰もあなたの評価を上げない。あなたのことを知っている人間は、あなた以上にあなたのことを知っている。現実と、あなたが発信する情報のギャップが大きければ、大きいほど、余計にあなたを追いつめる。でも、傍観者として何も行動を起こさなかったら批判される価値もない。生きてるのか死んでるのかさえも分からない。他人には正直に、自分の欲望には素直に生きよう ってところでしょうか。

小説でこんなに考えさせられるとは、朝井リョウ先生、恐るべし。自己啓発本読むより、この小説読んだ方が、自分の心がえぐり出されてすっきりするかもしれません。