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脱原発論/小林よしのり

小林よしのりゴーマニズム宣言Special『脱原発論』です。感情論で反原発するのでもなく、目先の利益にとらわれて原発推進する訳でもない『倫理と豊かさを両立する脱原発』について説明した本、とあります。たしかに、原発の仕組みや、次世代の自然エネルギーの可能性など、素人とは思えないくらい詳しく述べられており、興味深い内容でした。ただ、本のほとんどのページが個人攻撃や、雑誌批判、保守言論陣の矛盾点の指摘に費やされているのが残念です。はっきり言って普通に生きている市民にとって普段、保守陣営にいる人間が誰なのか、革新の急先鋒は誰なのか、なんて関係ありません。でも、小林よしのりにとっては、彼らを批判することが第一義的な目的になってしまっているようです。それでも色々勉強になったので、気になったポイントをいくつか挙げます。

福島第一原発第4号機が危ない 4号機は被災時、点検中のため、運転していなかったそうです。いま、まさに204本の使用していない新燃料棒が入ったままの状態とのこと。建屋がボロボロなので、取り出して安全な場所に持っていくにもかなりの工数がかかる。今のところ2013年12月には取り出せる予定らしい。もし、それまでに、大きな余震が来たら、燃料棒がメルトダウンを起こす可能性がある。

・電力のピーク、真夏の数時間のためだけに原発を稼働すべきなのか この本では、原発は電力の3割を賄っていると紹介し、原発を止めて電力が足りなくなるのは年間、真夏の数時間のみ。真夏の数時間のために原発を維持するなんて意味がないと言っています。ただ、実際は原発は24時間フルに稼働しつづけていて、さらに電力が必要となった時に火力や水力で発電する仕組みになっているので、原発がなくなった時の負担は、かなり重くなるようです。

原子力発電は安価か 火力発電で石油石炭の輸入が増えて、電力使用量が値上がりするというお話がありますが、ウランだって100%輸入品です。さらに、事故があって国土を喪失することを考えると原発のコストは計り知れないほど高い。だからコストをたてに原発を推進するのは無理があります。

放射性廃棄物質が無害化するまでにかかる期間は10万年 いま想定している廃棄方法は1000年保つと概算していますが、あと99000年はどうすんだ、っていう見通しが全くないそうです。10万年先まで害を及ぼす様な発明を、使用し始めた人の神経が分かりません。何を考えていたのでしょうか。バカなのでしょうか。

風力発電のポテンシャルは19億KW 震災前の電力会社10社の日本の発電量は約2億KWだそうなので、風力発電のポテンシャルは凄まじいです。海洋国家日本において、どこにも風が吹いていない状態なんてあり得ない。どこかで吹いている風を効率よく送電すれば、十分、自然エネルギーで暮らしていく社会も実現可能なのだとか。

ずっと政府の無策や原子力マネーに巣食う悪者の話をしている本でしたが、最後は夢のある話で締めくくられていて希望が持てました。脱原発という方針には大賛成なのですが、小林よしのりの言い方では、敵を作り過ぎる感じがします。マンガという手法も、嫌いな相手の印象を操作するのにうってつけなので、より一層、相手を憤慨させて、彼の邪魔をする人間が増える気がします。こんなに文字数も多いし、取材も徹底しているのなら、マンガという手法に頼らないで、論文形式で発表したら良い。もっと感情を排除して、相手を排斥する論理ではなく、取り込む形で議論していければ、きっと社会に素晴らしい貢献ができるに違いありません。