モフモフになれたら

本と映画と仕事と考えたこと

地雷女の見分け方 『幸せスイッチ』/小林泰三

幸せスイッチ (光文社文庫)

幸せスイッチ (光文社文庫)

ロジカルホラーの名手・小林泰三先生の短編集です。普通、「なんだかわからないもの」に対して人は恐怖を感じます。幽霊とか妖怪とかサイコパスとか、自分の経験・知識では存在する理由も行動理念も分からないものに対して恐怖を感じるものです。

でもこのロジカルホラーというのは恐怖の構造を逆さまにしてしまいます。つまり「わかっている」と思っていたものを「ねぇ、それ、本当にわかってるの?」と問いかけることによって読む人々が生きる基盤を文字通り根底から解体してしまうのです。こうなったら何もかもが恐ろしい。幽霊どころの騒ぎじゃない。隣人も石ころも自分自身も、世の中の全てがわからないことだらけ。この世界に寄る辺なし。

A=B、B=CならばA=Cという前提を基盤に生きている人が初めてDに出会ったときに感じる恐怖が普通の恐怖。小林泰三先生の恐怖は「なんでA=B、B=CならばA=Cと言えるの?」と問いかけてくる恐怖です。

いまいちピンとこない人は玩具修理者を読んでね。

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さて、この短編集。どれも粒ぞろいですが、際立つのが「どっちが大事」というお話です。うちの奥さんかと思った。

わたしは断言する。「仕事とわたしどっちが大事なの?」と問うてくる女と一緒にいても絶対に幸せになれない。そう問われたときの正解は「お前に決まってるだろ」でも「そんな寂しい思いをさせてごめんな」と言いながら抱きしめることでもない。即座に逃げるべきだ。いますぐLINEで「わかれよう、ありがとうさようなら」と送信してブロックしましょう。職場がバレてるなら転職して、ぶっとびカードを使いましょう。学生なら退学して、オーストラリアにワーホリに行けばいいじゃない。どんなに美人でスタイルが良くてお金持ちでも、その問いを発した時点でその人とは「共生」が不可能であることが確定します。自分がその人のために死ぬ覚悟があるなら一緒にいてもよろしい。でも、いますぐ保険かけて自殺する勇気ある?

なぜそこまで言うか、説明します。「仕事とわたしどっちが大事なの?」という問いは「あなたは、あなたの人生とわたしの人生、どっちが大事なの?」という問いと「わたしはあなたの人生よりもわたしの人生の方が大事よ」という宣言、この二つの意味を含んだ言葉だからです。この言葉を発する人は、あなたのことを微塵も考えていません。全て自分のことしか考えていません。「わたしはわたしが一番大事だけど、あなたはわたしのことを一番に考えてよね」と言っているのです。「おまえのものはおれのもの、おれのものもおれのもの」と同じ。西野カナのトリセツを聞いて涙を流しているタイプです。この人はあなたの溢れる愛情と善意につけ込んで、搾取できるだけ搾取し続けるでしょう。「仕事とわたしどっちが大事なの?」という問いは「お金とわたしどっちが大事なの?」という問いに変わり、ひいては「時間とわたしどっちが大事なの?」へ、そして最終的に「あなたとわたしどっちが大事なの?」という問いに帰着せざるを得ない。必ずそうなる。そうなったら別れるか、自分の人生を全て捧げるか、しかない。そんなんで良い訳ないでしょ。

微塵でもあなたの立場・気持ち・将来を考える想像力と余裕と愛情がある人は「仕事とわたしどっちが大事なの?」なんて恐ろしい問いを発することはありません。

本当に恐ろしいのは、そういう女の人が世の中にごまんといることです。お気をつけて。

わたしはもうダメみたいです・・・。