モフモフになれたら

本と映画と仕事と考えたこと

銃・病原菌・鉄(上)/ジャレド・ダイアモンド

ピュリッツァー賞朝日新聞ゼロ年代の50冊』一位を受賞した超有名な本です。学術書とは言え、非常に平易な文章で読みやすく、問題提起も単純明快、世の中の見方をがらっとかえるエッセンスが満載、さすがの一冊です。

この本のテーマはずばり

南北アメリカ大陸の先住民、アフリカ大陸の人々、そしてオーストラリア大陸アボリジニが、ヨーロッパ系やアジア系の人々を殺戮したり、征服したり、絶滅させる様なことが、なぜ起こらなかったのだろうか。p25

です。 国家という概念も、科学的思考法も、経済発展という共同理念も、言葉も、スポーツも、何もかもがヨーロッパ系を中心としたこの世界になったのはなぜか、という問いに、民族学的、地質学的、生物学的に検証していくのがこの本です。なかなかそそるテーマです。

すると真っ先に優生学が頭をよぎります。白人様は圧倒的に優秀であるがゆえに、世界を先導し、その他の民を啓蒙したのだ、と。しかし、ジャレド氏はこの説を一蹴するどころか、真逆だと言うのです。

ニューギニア人のほうが西洋人よりも頭が良いと私が感じる理由は二つある。中略、ニューギニア人は疫病が発生しうるほど人口が稠密な社会に暮らしていなかった。そのため、ニューギニア人の主な死因は昔から殺人であったり、部族間の衝突であったり、事故や飢えであった。こうした社会では、頭の良い人間のほうが頭の良くない人間よりも、それらの死因から逃れやすかったと言える。中略、つまり、頭の良い人間の遺伝子が自然淘汰で残る為のレースはニューギニア社会の方がヨーロッパ社会よりもおそらく過酷だったのである。p36

そして話は人類が誕生した700万年前に遡り、類人猿であった祖先と地球上の生物との関わりに話が及びます。

アフリカやユーラシアの大型動物のほとんどは現代まで生き延びてきているが、それは彼らが何百万年もの進化の時間を初期人類と共有し、人間を恐れることを学習したためである。p76

人類はアフリカで誕生し、徒歩でヨーロッパ、アジア、オセアニアアメリカへと渡っていきました。オセアニアの島々へ渡るには船を造るなどある程度の知性を有していないとならないため、オセアニアアメリカに渡った初めての人類は道具を有し火を操り、効率的に獲物を仕留める技術を習得していたと考えられます。のほほんと暮らしていたところに急に人類が襲来してきた訳ですから、オセアニアアメリカの動物達がうけた衝撃はペリー来航のそれどころではありません。あっという間に食料として効率のよさそうな大型ほ乳類は食べ尽くされ絶滅してしまったのです。なるほど、だからオセアニアアメリカはあんなに大きな大陸なのに大型のほ乳類が少ないのです。ゾウとかライオンとかいないもんね。アフリカにあんなにいるのは人類と幼なじみだから、人類の恐ろしさを知っており生き延びることが出来た訳です。

話は食料生産に進みます。

野営地から野営地へ移動しなければならない狩猟採集民の母親は、身の回りの者を運びながらの行動を強いられ、幼児を一人しか連れて歩けない。次の子供は、先に生まれた子供がみんなの足手まといにならずに歩ける様になるまでは産めない。中略、それに引き換え定住生活している人々は子連れで移動する必要がないので、養える限り多くの子供を海育てることが出来る。多くの農耕社会において出産間隔はおよそ二年で狩猟採集民の半分である。p156

なるほど。農耕社会は効率的にカロリー摂取出来るだけでなく、出産の間隔も縮めるメリットがあるのです。この発想はいままでありませんでした。農耕社会を実現させた人類は、人口を爆発的に増大させることに成功します。さらに効率的に食料を生産できるようになったことから、全員が食料生産に従事する必要がなくなり、王族や官僚といった特別な職種がつくられました。こうした中央集権的な集団のみが征服戦争を継続させることができるのです。毎日子供を抱えながら移動し、食料採集に全てのエネルギーをついやす民が征服戦争を継続することは不可能です。

他にも採集から農耕に移行した要因、家畜化できる動物の要素の分析など興味深い考察が続きますが、そこはこの本を読んでお楽しみください。

最後に一番気になった箇所。

コロンブスアメリカ大陸発見以降、二百年もたたないうちに先住民の人口は95%も減少してしまったことが推定される。これらのアメリカ先住民はヨーロッパ人達に出会うまで、ユーラシア大陸の病原菌にさらされたことがなかった。p389
そのような結果になったのは、ヨーロッパ人が、家畜との長い信仰から免疫をもつようになった病原菌を、とんでもない贈り物として、進出地域の先住民に渡したからだったのである。p395

ピサロインカ帝国を少人数で破滅させたのも、アメリカ合衆国がヨーロッパ人のものになったのも病原菌による感染症が重要な役割を果たしたと言います。では、なぜ日本ではヨーロッパ人による伝染病侵略が起きなかったのでしょう?既に人口が超密でいろんな疫病が蔓延しており耐性があったからか?生類哀れみの令とかで動物達と触れ合ってきたからか?中国大陸との繋がりでユーラシア大陸の病原菌と戦ってきた歴史があるからか?医学が進歩していたからか?どなたかご存知の方がいたら教えて下さい。

下巻に続きます。(今から読みます)